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長野家庭裁判所上田支部 平成11年(家)321号 審判

申立人 X

相手方 Y1

Y2

事件本人 A

主文

本件申立てを却下する。

理由

1  申立ての要旨

(1)  申立人は、事件本人の父親であり、相手方らは事件本人の祖父母でありかつ養父母であるが、これまでの相手方らの養育方針は事件本人の福祉にそぐわないものであり、申立人が事件本人と面接交渉することにより、相手方らの監護方針を是正するとともに、事件本人の健やかな成長をはかるため、面接交渉を求めるが、相手方らはこれを拒否している。

(2)  よって、申立人は、事件本人の監護養育に関し、相当な時期及び方法をもって、事件本人と面接交渉させるべき旨の審判を求める。

2  当裁判所の判断

(1)  当裁判所の事実調査によれば、次の事実を認めることができる。

〈1〉  申立人は、昭和53年11月14日B(以下「B」という。)と婚姻し、昭和55年7月4日相手方らとの間で、申立人が相手方らの養子となる旨の縁組をした。事件本人は、昭和60年○月○日、申立人とBとの間に二女として出生した。

〈2〉  申立人とBは、平成6年12月24日別居し、申立人は、平成7年1月20日、Bを相手方として、夫婦関係調整の調停の申立てをし(長野家庭裁判所上田支部平成7年(家イ)第×号)、他方、相手方らは、同年3月20日、申立人を相手方として、離縁の調停を申し立てた(長野家庭裁判所上田支部平成7年(家イ)第××号)。上記各事件は、数回期日を重ねて調停が試みられたが、合意に至らず不調となった。

〈3〉  その後、Bは、同人を原告、申立人を被告として、離婚等の訴えを提起し(長野地方裁判所上田支部平成7年(タ)第××号)、他方、相手方らは、相手方らを原告ら、申立人を被告として、離縁の訴えを提起した(長野地方裁判所上田支部平成7年(タ)第×××号)が、平成9年4月10日、長野家庭裁判所上田支部において、Bと申立人は、長女及び事件本人の親権者をBと定めて、調停により離婚し(平成9年(家イ)第××号)、同日、申立人と相手方らは、調停により離縁した(平成9年(家イ)第××号)。

〈4〉  事件本人は、この間、家庭内で暴力的傾向がみられたため、長野市所在の病院の精神科で診察を受けたところ、平成9年3月、心因反応との診断を受けた。医師によれば、その原因として、家族の平和等心理・環境的な要因に基づく可能性が高いというものであった。Bは、医師の助言や児童相談所の指導を受けて、同年4月18日、事件本人を長野市所在の養護施設に入所させた。

〈5〉  申立人は、同年5月26日、Bを相手方として、事件本人との面接交渉を求める調停の申立てをした(長野家庭裁判所上田支部平成9年(家イ)第××号)。

〈6〉  申立人は、同年10月15日、養護施設において、Bと養護施設の職員が立ち会った上、事件本人と面接した。家庭裁判所調査官の事前の注意にもかかわらず、申立人とBとの間で口論となり、事件本人は黙ってしまい、口げんかが嫌だと言って泣く場面もあった。面接交渉の際、申立人から事件本人に対し、申立人との単独での面接を申し入れたが、事件本人はこれを拒否した。その後、申立人は、事件本人に対して手紙を出したり贈り物をしたが、手紙に対する返事はなかった。

〈7〉  事件本人は、上記面接交渉申立事件(平成9年(家イ)第××号)において、家庭裁判所調査官により平成9年8月5日に実施された面接調査では、以前、Bから、同人に相談しないで申立人に会ったことを注意されたことから、申立人を怖いと感じた旨述べ、更に、養護施設における上記面接交渉の後である平成10年1月29日に実施された面接調査では、申立人にはあまり会いたくない、養護施設で申立人と面接することは嫌である、事件本人が自宅に帰省したときに、申立人宅で申立人と面接するのはよいが、単独で面接すると、申立人に「母親のところには行くな。」と言われるので怖い、養護施設での上記面接では、申立人とBが口論したので、申立人には帰って欲しいと思ったなどと述べている。

〈8〉  申立人は、同年2月26日、上記面接交渉事件(平成9年(家イ)第××号)の申立てを取り下げ、同日、同支部に対し、Bを相手方として、事件本人の親権者の変更を求める旨の調停の申立てをした(平成10年(家イ)第××号)が、同年4月18日、同事件の申立てを取り下げた。

〈9〉  事件本人は、同年5月15日から、家庭内暴力が原因で、長野県更埴市所在の病院の精神科に通院するようになり、同年6月中旬ころ、養護施設から自宅に戻ったが、精神状態が不安定であったことなどから、同年7月14日、同病院の精神科に入院した。同病院の精神科において、事件本人は情緒障害と診断されている。

〈10〉  この間の同年6月ころ、事件本人の希望により、事件本人と申立人との面接が行われた。Bは、事件本人の希望により、その後も事件本人を申立人宅に連れて行ったが、申立人方では応答がなく、事件本人を申立人に会わせることはできなかった。事件本人は、その後は、申立人と会いたくないと言うようになったため、Bは、以後事件本人を申立人に会わせていない。

〈11〉  申立人は、同年9月25日、同支部に対し、Bを相手方として、事件本人の親権者を変更する旨の調停の申立てをした(平成10年(家イ)第×××号)が、相手方らは、同年10月27日、代諾者Bとの間で、事件本人を養子とする旨の縁組をしたため、申立人は、同年11月13日上記親権者変更の申立てを取り下げた。

〈12〉  申立人は、同年11月13日、同支部に対し、相手方らを相手方らとして、事件本人との面接交渉を求める旨の調停の申立てをした(平成10年(家イ)第×××号)。

〈13〉  事件本人は、同年12月14日、上記更埴市所在の病院の精神科を退院した。

〈14〉  家庭裁判所調査官は、上記面接交渉申立事件(平成10年(家イ)第×××号)において、平成11年1月18日、事件本人宅を訪問し、相手方らと面接した際、事件本人と面接する機会があったが、事件本人は、その際、調査官に対し、相手方ら同席の場であったが、「申立人と会うのは嫌だ。」と述べている。

〈15〉  申立人は、同年2月ころ、たまたま路上で、事件本人に会った際、事件本人に対し、入院させられるのが嫌だったら、申立人宅で住もうと話したところ、事件本人は、これを拒否した。

〈16〉  上記調停(平成10年(家イ)第×××号)は、平成11年5月12日不調となり、審判に移行した。

〈17〉  事件本人は、現在中学2年に在学しているが、精神的に不安定で、登校するのはごくわずかな日数に過ぎず、同年5月17日、同県中野市所在の病院の精神科で診察を受け、同年6月中旬ころ、同病院の精神科に入院した。事件本人の現在の精神的身体的状況の詳細については判明しない。

〈18〉  相手方らは、事件本人が心の障害があるため治療中であることや家庭裁判所調査官に対する不信が強いことなどから、家庭裁判所調査官による事件本人のみとの面接による同人の意向調査は行われていない。

〈19〉  相手方らは、事件本人が希望した場合は、申立人と事件本人との面接交渉を拒否しない意向であるが、事件本人が心の障害があって治療中であることなどから、申立人と事件本人との面接交渉を拒んでいる。

〈20〉  申立人は、事件本人への愛情に基づいて面接交渉を求めているが、他方で、相手方らが、事件本人を、同人が正常であるにもかかわらず、病院に入院させるなどしているため、事件本人の精神状況が悪化しているものであるとして、監護状況を是正するため、面接交渉を実現したいとする意向を強く示している。

(2)  ところで、事件本人と非親権者との面接交渉を認めるか否かは、あくまで事件本人の福祉に合致するか否かによって決定されるべきものであるから、その判断にあたっては、子の意思がどうであるか、子の生活関係に及ぼす影響はどうか、親権者の意思はどうか、親権者の監護養育に悪影響を及ぼさないかどうかといった点を考慮すべきものと解する。

(3)  これを本件についてみると、上記認定事実、特に、事件本人は、長期間にわたって、精神科の治療を受けており、身体的精神的な状況は判明しないものの、現在精神科に入院し治療を受けていること、事件本人は、申立人とB及び相手方らの間の離婚、離縁にまつわる粉争によって、心を痛め、そのことが精神的に悪影響を及ぼしているものと推測されること、立会人なくして事件本人の状況及び意向を直接確認することはできないものの、これまでの調査経過に照らすと、事件本人は、申立人との面接交渉について必ずしも積極的ではなく、事件本人の状況を考えると面接交渉を無理強いすることは相当でないと思われること、相手方らは、事件本人が望むのであれば、申立人との面接交渉を拒否するものではないが、事件本人が心の障害があるため治療中であることなどから、申立人との面接交渉を拒んでいるところ、申立人と、相手方ら及びBとの間では、現在でも、離婚、離縁を巡る紛争が、互いの心に傷を残しているものと考えられ、双方において、事件本人の福祉を最優先に考えて、冷静に面接交渉を検討しようとする心構えができていないと思われること、申立人は、相手方らの監護方針に納得せず、面接交渉を通じてこれを是正しようとする意向が強いことなどを考慮すると、申立人の事件本人に対する面接交渉を認容した場合、申立人は相手方らの監護方針に干渉するおそれがあり、これによって、入院治療中の事件本人が、申立人と相手方らとの間にあって、精神的に傷つけられて混乱するとともに、相手方らと事件本人との信頼関係に影響を及ぼし、事件本人に対する適切な監護ができなくなるおそれがあるなど、事件本人の生活関係及び相手方らの監護養育に及ぼす悪影響は軽視しがたいものがあると思料される。むしろ、現状では、事件本人の福祉をはかるためには、事件本人の治療を最優先させて事件本人の精神状態の安定をはかるとともに、監護者である相手方らにおいて、事件本人との安定した信頼関係のもとで、事件本人に接することができるよう、申立人、B、相手方ら事件本人にかかわる者全員が協力することが望まれる。

(4)  このような次第で、現状では、申立人と事件本人との面接交渉を認めることは、事件本人の福祉に合致するものとは思われないから、申立人の本件申立てを却下することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 川島利夫)

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